大阪地方裁判所 昭和43年(わ)411号・昭43年(わ)2252号 判決
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〔決定理由〕(罪となるべき事実)
第一 被告人西田勉は小売市場の経営、店舗の賃付等を目的とする西田興業株式会社の代表取締役社長、被告人吉村英男、同柴田毅、同小島信太郎、同井上融は同会社の社員であつたが、同会社は昭和四〇年二月二四日漬物商北村隆(当時三三年)に対し同会社が経営する大阪市西淀川区姫里町二丁目一三九番地姫島駅前ストアー一階七号店舗を賃料一万三、〇〇〇円、保証金七〇万円(但し、一年以内に解約の時は二割引で返還するが、それ以後は権利金として扱う)の約束で賃貸し、その際右北村隆およびその妻北村良子らから住居に困つているから同ストアー二階の住宅も貸して欲しいと求められたが、空いた部屋がなく、既に同会社が履物商上村清に賃貸していた二階三号室がその頃使用されていなかつたため、同室を同会社の請求があり次第いつでも明け渡す、但しその時は同会社は別の部屋を用意するか、又は付近のアパートを世話するという特約のもとに同人らに無償で使用させることとし、右北村夫婦は同月二八日頃から同室に入居して翌三月中旬頃から右店舗で漬物商を営んだが、わずか二カ月して営業不振に陥り廃業を決意し、同年六月末頃から同店舗を明け渡すので保証金を返還して貰いたい旨申し入れていたが、西田興業株式会社は十分な資金がないのに入居商人から得る権利金、保証金等を目当てに次々と市場の建設をし、その費用につぎ込んでいつたため右保証金の返還請求に応ずることができず、そのため北村らはやむなく同年九月末頃から右店舗を閉めたが、北村良子はなお二階三号室に居住して保証金の返還を求め続け、同年一一月一〇日頃には同女の父吉岡嘉三郎とともに当初の賃貸借契約書を示して右返還を強く迫つたところ、被告人西田は二階三号室は前記履物商上村清より権利を譲り受けた村上次郎から明渡を求められている部屋でもあるからこの際同女を追い出そうと考え、取引がなく不渡となることが明らかな支払期日昭和四一年三月三〇日金額五四万五、〇〇〇円の約束手形一通を作成して同女に手渡し、以後連日のように被告人吉村を通じて同室の明渡を強く求めたが、同女は同手形が現金化するまでは同居室を明け渡せないといつて拒み、昭和四一年三月三〇日右手形を書き替えた約束手形二通(昭和四三年押第七二〇号の一)が予想されたとおり不渡になるや、同女の父吉岡嘉三郎は大阪地方裁判所に手形訴訟を提起し、その後被告人西田からなされた示談の申出も断つたところ、被告人西田は北村良子が依然として二階三号室を明け渡さないうえに右訴訟を起して示談に応じないことに憤慨し、昭和四一年五月五日午後八時頃前記姫島駅前ストアー二階西田興業株式会社事務所において被告人ら五名は実力でもつて右居室の明渡を強行しようと共謀し、直ちに北村良子(当三二年)の居住する二階三号室に赴き、同室前廊下において同女に対し「今すぐ部屋を明けて出て行け、お前はここに住む権利はない、出んというなら放り出してやる」などと怒鳴りつけ、同女が明日まで待つて下さいと言うのも聞かず右北村方居室内から同女の家財道具全部を室外廊下に搬出したうえ、表入口板戸を釘付けにして「立入禁止」の貼り紙をなし、もつて鉄骨造二階建姫島駅前ストアーのうち北村良子の占有する前記居室約二〇平方メートルを侵奪し<中略>
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は判示第一の事実について、本件二階三号室は一階七号店舗を北村隆に賃貸した際の賃貸借の対象物件になつておらず、同号室は同人が早急にアパートを借りるまでの間一時的に無償で使用することを同人に許容したものにすぎないから、本件一階七号店舗の賃借人でもない北村良子は二階三号室を占有する何らの権原を有さず、仮に北村隆の使用権原に基き占有しうるとしても、同人も早急にアパートを借りるに必要な期間が経過した後は同室を使用する権原がなかつたのであるからいずれにしても同女に使用占有権原のないところ、同女は昭和四一年五月五日まで約一年間にわたり被告人らの明渡請求を拒み不法に占拠し続けたため、被告人らはやむなく西田興業株式会社の権利保全のため本件行為に及んだもので正当な行為であると主張するので判断する。
本件二階三号室が西田興業株式会社と北村隆との賃貸借契約の対象物件にはなつていなかつたこと、同号室は同人が早急にアパートを借り入れるまでの間一時的に無償で使用させたものであること、北村良子が昭和四一年五月五日まで右二階三号室の明渡請求を拒み占拠し続けていたことは弁護人の主張するとおりである。
ところで北村良子は北村隆の妻として右使用貸借契約に基き本件二階三号室を使用占有しうるところであるから、まず右使用貸借契約の終了時期について考えるに、判示第一の事実につき掲記した各証拠を総合すると、右会社は昭和四〇年四月中旬頃、右三号室の賃借権を有していた履物商上村清より同権利を譲り受けた村上次郎から同室の明渡を要求され、北村夫婦に対しその明渡を希望していたものの、北村隆との間には判示第一のような特約が存在したため同人らに対し明渡の請求を行わずにいたところ、北村らは同年六月末頃から会社に対し一階七号店舗を明け渡すのでその保証金を返還してもらいたいと申し入れ同店舗の賃貸借契約の解約の申入をなし、それより三カ月経過し、同店舗を閉店した同年九月末頃右賃貸借契約は解約により終了したものと認められ、そうすると本件二階三号室の使用貸借契約は右店舗の賃貸借契約の存在を当然の前提として締結されたものであるから、右使用貸借は右店舗の賃貸借契約とともに終了したものであると解するのが相当である。
ところで会社は北村隆に対し右賃貸借契約終了時に返還することになつていた保証金を返還しないのであるから同人は保証金の返還があるまで右店舗の明渡を拒みうるけれども、二階三号室は前示のとおり右賃貸借契約の対象物件になつておらず、従つて店舗についての保証金である金七〇万円の二割引の金員返還とは同時履行の関係にないと解すべきであるから、二階三号室については同室の使用貸借契約終了とともに北村らは同室を占有する権利を失い、明渡義務を負つたものということができる。
そこで次に右明渡義務を負つていた北村良子に対し被告人らが判示第一のとおりの実力を用いて右居室に対する同女の占有を排除し被告人らの占有を設定した行為が正当な権利行使であるか否かについて検討するに、北村良子は前記のとおり会社からの明渡請求を拒み続け、本件犯行日である昭和四〇年五月五日まで本件二階三号室を使用占有していたものではあるが、右会社は履物商村上次郎から右居室の明渡を求められ毎月家賃五、〇〇〇円相当の損害を被つていたとしても法律の定める手続をとつて明渡を求める余裕のない程の緊急性は認められず、且つ又同女は北村隆の代理人として右会社が返還しなければならない保証金を同会社から受け取りさえすればいつでも右居室を明け渡す旨言明していたのに、被告人らは保証金を返還しようとせずに判示第一のとおりの実力でもつて明渡を強行したのであるからその行為は手段においても相当でなく、結局被告人らの本件行為は正当な行為として認めることはできない。(山本久己 和田忠義 吉岡浩)